当時30才(三人の子持ち)の私が、ホステスとしてクラブで働き始めた年でもあった。年齢は28才・独身と噓をつき着物姿で出勤していた。
テレビドラマとは違って、学ばなければならない事だらけで気持ちも頭の中もいっぱいで、夕刻から働きに出る母親に対して子供たちがどんな思いで送り出しているかなんて考えもしなかった。
勤め始めて1か月ぐらい経った頃だった。
店に行くため、いつものように身支度を終え草履を履いていると「お母さん、行くの~。早く帰ってきてね!」3歳の次女が後ろから抱きついてきた。
何だか、せつなくなって、少しの間じっとしていると「もう行ってもいいよ。行ってらっしゃい!」その元気な声にホッとして玄関を出た。
バス停目指して早足に歩いていると「あのーすみません、よかったら帯に付いている物、取りましょうか?」その声に立ち止まり振り返るとニコニコ顔の婦警さんが二人。そばに来て外してくれたものは洗濯ばさみだった。しかも5個!・・この時は単に次女にいたずらされた笑い話程度にしか思っていなかた。
あくる日、次女に昨日の洗濯バサミのことを聞いてみた。
「お母さん、怒ってる⁉」の言葉に怒りはしてないけど、これからはしないように言う。
「お着物に変なものが付いてたら、お着替えしに帰って来るかなあ思たん・・・だってお母さんお仕事行くと私、寂しいもん。お仕事に行くお母さんを困らしたらあかんって!お姉ちゃんもお兄ちゃんも言わはるけど寂しいもん」と、泣きながら話してくれた。
思わず娘を抱いて私も泣いていた。
幼い娘に大人の都合と自分目線で、子供の心を見ていたことに気付かされる日だった!